これからの化学物質管理
―化学物質とEmerging Issues―
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第5回 SAICM/ICCM.2のEmerging Policy Issue(4) ![]()
【廃棄物となった電気・電子製品】 前回の「製品中の化学物質」に関する問題点は電気・電子製品にも当てはまり、使用中の消費者へのばく露や製造過程での労働者による人の健康への影響を考慮するとともに情報の伝達が求められるようになっています。廃棄物となった電気・電子製品に含まれる有害な物質は環境に対する影響が特に懸念され、廃棄物の適切な処理能力を持たない途上国に輸出されて、そこで寿命を終えた電気・電子製品から環境中に放出された有害な物質による人の健康への悪影響や環境汚染の可能性がICCMでは指摘されています。
廃棄物の国境間移動はバーゼル条約で規制されていますが、中古製品として輸入されればすぐに廃棄物となるような製品にはこの条約には適用されません。輸出側がそれを予期していれば、いわばバーゼル条約をかいくぐった途上国の廃棄物による環境汚染になります。この問題をICCMに提起したのはアフリカ諸国とペルーで、中でもナイジェリアが最も熱心です。各種の資料をみると、そこには多量の中古あるいは廃電気・電子製品が持ち込まれていることが良くわかります。
電気・電子製品中の化学物質といえばまず思い起こすのは2002年に成立した欧州のRoHS指令とWEEE指令でしょう。RoHS指令の対象物質は、鉛、水銀、カドミウム、六価クロムの重金属とポリ臭素化ビフェニル(PBB)、ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDE)です。電気・電子製品はそれ自身が火災の発火点になるので、プラスチック製の筺体は難燃化が必要ですが、2009年に難燃剤として用いられていたPBBとPBDEはPOPs(残留性有機汚染物質)として、リサイクルに関する緩和措置が取られているとはいえ、ストックホルム条約の附属書Aに収載され世界は廃絶に向けて動き出しました。欧州ではRoHS指令によって、PBBとPBDEを含む製品は2006年から市場に出すことが禁止されていますが、それ以前から消費者のもとで使用されている製品には含まれている可能性があります。それが中古品として輸出されれば、結果としてPOPsが国境間を移動することになりますが、回収中古品にこれらが使用されているかどうかを見極めることは容易ではありません。
電気・電子製品には各種の貴金属や希少金属も使用されています。将来の資源確保を目的として使用済み製品の回収もすすめられていますが、現在は高品位で回収することが経済的に成り立たない金属種があります。リサイクル技術が進み経済環境が整えば、国内市場で電気・電子製品は循環が可能になります。法規制だけでなく、そのような社会的な変化もまた、違法に近い形での途上国への中古製品の輸出を抑制することになるでしょう。
ナイジェリアの指摘では、中古/廃電気・電子製品は主として欧州から持ち込まれています。欧州は世界に先駆けてRoHS指令を制定しました。そのために禁止物質を含有する電気・電子製品は廃棄物となった時にリサイクルが難しくなったのでしょう。その結果バーゼル条約に抵触しない中古製品としての域外への持ち出しにつながったのだとすれば、電気・電子製品の管理方法の問題点を提起しているものと思われます。同様に、リサイクルに関しての時限的な緩和措置はありますが、ストックホルム条約で規制される難燃剤を含む電気・電子製品は自国での回収・無害化処理が求められるでしょう。廃電気・電子製品はもとより、すぐに廃棄されることが容易に予想される中古製品の廃棄物無害化処理能力を持たない途上国に「輸出」することは慎まなければならないでしょう。
有害物質による人の健康と環境への好ましくない影響の削減では、有害物質を使用しないことが最も近道であることは言うまでもありません。欧州ではREACH規則だけでなく、EuP/ErP指令・RoHS指令あるいはWEEE指令のように法制度化を進めています。しかし、対象製品と物質の網羅性と効率性の点で法制化は必ずしも優れているとは限りません。むしろ、グリーンケミストリーやレスポンシブル・ケアなどによる産業界の自主的な活動が、今後は重要になるでしょう。